発達障害の傾向が強いほど「自分は普通」と思っている【心理学解説】

発達障害グレーゾーン

「自分は普通?」それとも「周りと違う?」自己認識スタイルの違いを探る

私たちは、自分自身をどのように捉えているでしょうか。「自分はこういう人間だ」という自己認識は、日々の行動や感情、他者との関わりに大きな影響を与えます。

ところで、「自分は特に周りと変わらない『普通』の人間だ」と感じやすい人と、「自分は周りと比べてどうだろうか?」と常に自問し、修正しようと努める人がいるように感じたことはありませんか?

今回は、発達障害やグレーゾーンの特性がある方と、健常者との間で、自己認識のあり方や自分自身を振り返るスタイルに違いが見られることがあるという点について、心理学的な視点から探ってみたいと思います。

1. 「自分を疑い、修正する」

一般的な人々の間では、成長の過程や社会生活の中で、以下のような行動が行われています。

  • 社会的比較: 周囲の人々の言動や能力、考え方などを意識し、「自分はどうか?」と比較する。
  • 自己モニタリング: 自分の言動が他者にどう受け取られているか、社会的な規範や期待から逸脱していないかを意識的に、あるいは無意識的にチェックする。
  • 自己修正と向上心: 他者との比較や自己モニタリングの結果、「もっとこうすべきだ」「ここを改善しよう」と考え、行動を修正したり、スキルアップを目指したりする。

これらのプロセスは、社会に適応し、他者と協調していく上で役立つ側面があります。周囲からのフィードバックや暗黙のルールを敏感に察知し、自分をそれに合わせて調整していく能力とも言えます。

しかし、この考え方は常に正しいわけではありません。
この傾向が強すぎると、過度な自己批判、他者の評価への過敏さ、自信のなさ、不安感につながることもあります。常に「これでいいのか?」と自問し続けることは、精神的なエネルギーを消耗させる側面も持っています。

2. 「自分は普通」と感じやすい?:発達障害・グレーゾーンに見られることのある自己認識スタイル

一方、発達障害やグレーゾーンの特性がある方の中には、『普通の人々が自然に行っているような上記の社会的比較や自己モニタリングを、同じようには行わない(あるいは、その必要性を感じにくい)』場合があります。その結果、「自分は特に周りと変わらない」「自分は普通だ」と感じているように見えることがあります。

なぜ、そのような自己認識スタイルが見られることがあるのでしょうか? 考えられる背景要因には、以下のような認知特性の関与が挙げられます。(ただし、これも個人差が大きいです。)

  • 社会的比較のスタイルの違い: 他者の言動や感情、社会的な暗黙のルールなどへの関心が薄かったり、それらを読み取ることが苦手だったりする場合、他者と自分を比較して「自分はどうか?」と考える機会が相対的に少なくなる可能性があります。
  • メタ認知(自己を客観視する力)の特性: 自分の思考や行動、能力などを客観的に把握し、評価すること(メタ認知)に難しさがある場合、自分の特性や課題を自覚しにくくなることがあります。
  • 「心の理論」の特性: 他者の視点や意図、感情などを推測する「心の理論」に特有のスタイルがある場合、自分の言動が他者にどう影響しているか、どう思われているかを想像することが難しく、自己修正の必要性を感じにくいことがあります。
  • 経験や環境: 本人が大きな困難を感じていなかったり、周囲から特性について具体的なフィードバックを受ける機会が少なかったりした場合、「自分は特に問題ない」という認識が維持されることがあります。

重要な注意点: これは決して「発達障害の人は自己反省しない」という意味ではありません。困難に直面したり、他者から指摘されたりすれば、深く悩み、自分自身と向き合う方はたくさんいます。また、特に診断を受けていないグレーゾーンの方や、特性を隠そうと努力している(マスキング)方の中には、むしろ人一倍「普通であろう」と意識し、常に自分をモニタリングして疲弊しているケースも少なくありません。

「自分は普通だ」と感じているように見える背景には、単に「違いに気づいていない」だけでなく、「違いを認識した上で、それを受容している」あるいは「困難さを感じつつも、それをどう表現・対処していいか分からない」といった多様な状態がありえます。

3. 「自分を疑う」ことと「疑わない」こと

健常者に見られる「自分を疑い、修正する」傾向も、発達障害等に見られることがある「自分を(相対的に)疑わない」傾向も、それぞれにメリットとデメリットがあり、どちらが優れているというものではありません。

  • 自分を疑うこと:
    • メリット:柔軟な適応、成長、協調性の向上につながる。
    • デメリット:不安、自己肯定感の低下、精神的疲労を招くことがある。自分自ら、自分を壊すことがある。
  • 自分を(相対的に)疑わないこと:
    • メリット:自己肯定感の維持、精神的な安定、独自の視点の保持につながる。
    • デメリット:社会的な場面でのすれ違い、課題の認識・対処の遅れ、孤立につながる可能性がある。

大切なのは、どちらのタイプが良いか悪いかを決めることではなく、多様な自己認識のスタイルがあることを理解し、それぞれの背景にあるものを想像することです。

まとめ:多様な「自分」の捉え方を理解する

「自分は普通だ」と感じる人も、「自分は周りと違うかもしれない」と常に考える人もいます。その背景には、生まれ持った認知特性、育った環境、これまでの経験など、様々な要因が複雑に絡み合っています。

発達障害の有無という枠組みだけで「あの人は自分を疑わない」「この人は常に自分を疑う」と単純に決めつけることはできません。しかし、発達障害の認知特性が、自己認識のあり方や社会的比較のスタイルに影響を与える可能性はあります。

重要なのは、表面的な言動だけで相手を判断せず、「なぜそう感じるのだろう?」「どのような世界を生きているのだろう?」と想像力を働かせ、それぞれの「普通」や「当たり前」が異なる可能性を理解しようと努めることです。

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